「食育」という言葉がまだ今ほど定着していなかった頃から、今は成人した娘たちと一緒に家で料理をしてきました。また、娘たちを連れて子どもクッキングの開催もしました。今回はそんな食育経験の中からのアドバイスです。
安全な調理のために整える環境
子どもに料理をさせるなんて危ないと思う方はまだまだ多いと思います。しかし、それは大人の常識に子どもをあてはめて考えるからです。子ども目線で環境を整えてやれば安全にできます。まず大切なのは、よい姿勢です。一度、子どもの目線になってキッチンに立ってみましょう。目の前にまな板や包丁、火があるのは怖いと思いませんか。我が家では畳の上に新聞紙を敷いてとうもろこしの皮をむいたり、煮干しの頭を取ったりしました。少し大きくなると、ダイニングテーブルで椅子に立ち膝をさせました。子どもの肘がテーブル面よりも上にあり、腕を直角に曲げられる高さがいいですね。また、必ずしもキッチンである必要はありません。
大勢の子どもたち対象の場合は?
自分の子どもだけでなく、大勢の子ども達が対象だと、かなり大変です。しかも、初対面の子ども達はどんな行動を取るのか読めません。私は、教室が始まってすぐに「3つのお約束」をしていました。「①走らない」、「②ふざけない」、「③順番を守る」、それが守れない子はお料理できませんというと、やんちゃな男の子でも背筋がピンとするから不思議です。そして、包丁を渡すときにはとても真剣な眼差しになります。「あなたを信頼しているから包丁を渡すのよ」というメッセージが伝わるのですね。おかげで、約10年間に幼稚園児から小学生までのべ1000人をみてきましたが、大きなケガなどありませんでした。
楽しいだけではなく学びのある空間を
栄養士の私たちが開催するのなら、単なるイベントではなく食育の要素を取り入れたいものです。メニューは手でちぎって盛りつけるだけのサラダのように簡単なものから始めましょう。大人から見たらつまらない献立でも、簡単だからこそ最初から最後まで自分たちで作ることができ、満足感や達成感を得られるのです。
ある教室ではおにぎりを作らせたところ、母親には不評だったそうです。しかし、私たちは「おにぎり」を売っているのではなく、おにぎりをつくる「体験」を売っています。難しい料理は時間に追われたり、大人が手を出したりしてしまい、食育本来の目的が果たせません。目的をしっかり伝え、理解してもらう工夫が必要です。
食育をすると将来どうなる?
我が家の娘たちは2~3歳の頃から食育の実験台にされてきました。小学生の頃には休日になると姉妹で、トースト、目玉焼きといった朝食を作ってくれたので、私は朝寝坊できました。中学生になると料理の他にお菓子も作るようになり、高校生になると子どもの食事をわざわざ用意しておかなくても勝手に作って食べてくれるので、外泊出張も気兼ねなく行けました。大学生、社会人になった今、残業で疲れて帰った時に夕飯が用意されているとこの上ない幸せを感じます。おかげさまで母親業はそろそろ卒業です。食育は、子どもの自立に間違いなく役立つ要素だと確信しています。
※本コラムのTOP画像は、子どもクッキングの様子です。
大人なら分担して行う調理も、子どもクッキングでは必ず全員がすべての調理を経験します。「自分のケーキ」に愛着が沸くので、飽きずにずっと見ています。
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