前回に続き前回に続き、2004~2006年に活動した青年海外協力隊栄養士隊員の経験をお伝えします。
任地住民の日常的な食生活
糖尿病患者さん向け講習会の参加者は、保健所スタッフがあらかじめ糖尿病や脂質異常症患者さんがいると把握していた家庭に招待状を送って集めました。そして、各回食事記録用紙を渡し、書ける人には普段の食事を記録してもらいました。
大まかな傾向として、主食はとうもろこしのトルティーヤ、副食はいんげん豆、調理用バナナ、キャッサバ、はやと瓜が中心の食事に、炒めて塩とトマトソースで調理した米やパスタが加わります。米もパスタも「主食」という意識はなく、トルティーヤに包んで副食として食べられていました。
調理法は「揚げる」が最も多く、さらに食事の際、mantequilla(マンテキージャ)と呼ばれるサワークリームを皿全体にたっぷりかけて食べる習慣もありました。
炭水化物と油に偏った食事に問題を感じて、食事記録を基に各自へ聞き取りをしてみると、調理用バナナ・キャッサバ・じゃが芋・カボチャなどは全て野菜、果物はビタミンを多く含んでいるので野菜と同じように沢山食べた方が良いと認識していることが分かってきました。
さらに間食では、清涼飲料水に加え、砂糖がたっぷり入ったコーヒーやフルーツジュース、バナナフライ、その時期に採れる果物などをとっていました。町中には沢山の果樹があり、特にマンゴーが旬の時期は子供たちがスルスルッと木に登り沢山の実を収穫してきます。うるし科の植物なので、この時期に口の周りが赤く荒れてる子どもを見かけると、マンゴー食べ過ぎたでしょう? なんて笑いあったのを思い出します。
食習慣の改善を目指して…調理実習会スタート
町の人々は3回の食事+間食を決まった時間にとる習慣がなく、大人も子供も、いつでもどこでも棒付きキャンディーをくわえているような状況でした。保健所のスタッフが小袋のスナック菓子を小脇に抱え、指を舐めながら体重・血圧測定などをしているのも普通の光景でした。
5回の講習会で一通りの食事療法の内容を説明後、講習会の参加率を上げることと自身の適量をお腹で覚えてもらうことを目的として、着任1年目からは計量実習と試食会をスタートしました。調理設備がなく参加者はほぼ高齢だったので、私が自宅で調理した総菜を持参し、食べながら講義を聞いてもらうスタイルにしたのですが、こちらはなかなか好評でした。
持参するお惣菜は、油と砂糖の過剰摂取に加え、たんぱく質食品と野菜類の不足も課題と感じていたので、各回必ず大豆と野菜料理を紹介していました。
小さな町にも医療格差がありました
並行して生活状況を把握する目的で、参加者の家庭訪問もスタートしました。家庭訪問をしたことで、裕福な家庭は首都の大きな病院、貧しい家庭は無料で受診できる町の保健所(任地)で診察を受けることを知りました。
糖尿病患者さんは「食事と運動療法だけで良好な血糖コントロールを維持するのが理想」といわれますが、多くの患者さんは、食事・運動療法と並行して薬物療法が必要であると感じます。しかし、保健所の血糖降下薬は常に在庫切れで、入荷するとすぐ医師や看護師が一気に処方してしまうため、必要なタイミングで患者さんの手に渡らないことがほとんどでした。薬は町の商店でも販売されていましたが、保健所で診察を受ける人で毎日の薬代を支払える人は少数でした。医療格差を目の当たりにしてとても悔しく思ったことを覚えています。
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・食生活・栄養・病気と貧困について【前編】
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