今回は、病院で管理栄養士として活躍中の菅智行さんにお話をうかがいました。
食べ物を栄養の視点から考えるのはおもしろい
子供の頃から料理に興味があり、調理師を目指していました。中でも魚が好きで寿司職人に憧れていたことを覚えています。進路先を決める過程で食べ物を栄養学的な視点から捉えることに面白みを感じ、栄養士を目指すこととなりました。
ヒトの体は様々な物質で構成され、それらは栄養と呼ばれています。私たちは普段、栄養を食事から補給しています。食品は数え切れないほどありますが、食品一つ一つをみると含まれる栄養素は偏っています。偏った食事では健康を害してしまいます。しかし、不思議なことに私たちに必要な栄養の量やバランスは伝統的な日本食でとれるようになっています。日本食が栄養バランスに優れることは海外でも認められ始めていました。私たちは伝統的に栄養バランスの整った食事をしてきたのです。そんなところにおもしろみを感じ、栄養のプロになろうと決めました。
就職は病院へ
栄養士の学校に通いながら、子供たちの成長を担う給食を作りたいと思っていました。しかし、インターンシップ先は病院でした。そこで活躍する管理栄養士が栄養指導をする姿は輝かしく感じ、病院への就職を決めました。そして今、私は病院で、主に入院患者の栄養管理、チーム医療、臨床研究、栄養指導、給食管理、調理に携わっています。
病院での日々の仕事の大部分は、食事+経腸栄養+静脈栄養の提案です。栄養投与ルートは大きく3つに分けられます。私たちは普段、食事から栄養を補給していますが、口から食べられない場合は、チューブを用いて胃腸にとどけます。さらに胃腸が使えない場合は、点滴で静脈に直接、栄養を補給します。管理栄養士は3つのルートのどれからも、または組み合わせて病態や症状に適した栄養を確保する方法を評価し、提案することができます。
自らが進んで学び研究する姿勢で
日々新しい食品が開発されたり、メディアが注目する食品が現れたり、栄養療法の変化などがあるため、新しいことを学び続けることが管理栄養士のイメージでした。臨床研究を始めてからは、栄養療法についてはまだまだブラックボックスの部分が多く、自らが研究することで切り開けるものが多くあるのだなということを感じています。
かなりマニアックな話ですが、ある日チームで経腸栄養の投与方法を検討していた際のことです。その症例では血糖コントロールを目的とした経腸栄養管理が目標でした。投与ルートは経鼻胃管から、投与方法は24時間の持続投与に決定しました。投与内容は投与後の血糖の急上昇を抑制する特徴の栄養剤としました。
しかし、必要投与量を24時間かけてゆっくり投与している場合にも、血糖の急上昇を抑制する栄養剤を選択するメリットはあるのだろうか。普通の栄養剤でも変らないのでは? という疑問が浮かびました。先行研究や書籍などを調べてもその答えはわかりませんでした。ならば自分で調査しようと思ったことが初めての研究の第一歩でした。
日々の「そんな気がする」を「カタチにする」ができるところが研究の面白いところです。
やりがいを感じるのはこんな時
私の所属するチームでは経腸栄養、静脈栄養を中心として栄養療法を行なっていますが、近年では摂食嚥下障害を呈する患者さんに積極的な経口摂取の開始を試みています。安全に口から食べられた時の患者さんの喜ぶ顔を見られたときはスタッフ皆でやりがいを感じています。栄養療法では栄養投与経路や投与内容ということに注目されますが、やはり「口から食べる」ということは楽しみであり、人間らしさを支えていることだと感じさせられます。食事の栄養と楽しみの両方の役割を最大限に活かす「食べて元気!」
これをモットーに活動しています。
管理栄養士・栄養士を目指す人に向けて一言
大学病院は様々な症例と出会い、知識や技術を磨き、経験を得ることができる場所です。栄養療法に求められるレベルは高く、他の医療スタッフとのコミュニケーションには医療用語や治療に対する幅広い知識も持たなければいけません。大変ですがやりがいも大きく、頑張っただけ自分に返ってきます。成長したい人にはオススメです。そして、近年ではチーム医療も活発になってきており、管理栄養士は栄養療法において右に出るものはない職種です。多職種で構成される様々なチームでも管理栄養士は活躍できます。