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今回は、7年間の福祉施設勤務を経て、各自治体の介護予防教室・食生活改善事業などの講師を務めた後、2014年にフリーランスの管理栄養士となり、現在はミドル・シニア層を中心に、『食を通して、笑顔でその人らしい生活を送ることができる』をキーワードに活動をしている管理栄養士の小林さんにお話をうかがいました。

栄養士を目指したきっかけは長期入院

中学生の時にUC(潰瘍性大腸炎)を発症し、長期入院生活を経験しました。その中で、厳しい食事制限があったこと、医療と密接な状況にいたことなどがベースとなり、看護か栄養の道を考えました。当初はまだUC患者数も少なく、看護師さんも栄養士さんも、手探り状態。飲みにくい経腸栄養剤を、少しでも飲みやすくできないかと試行錯誤してくれたことや退屈な入院生活でも前向きな気持ちにさせてくれる工夫をたくさんしてくれたことが印象的でした。
そして、高校入学時は看護の道を目指していたのですが、子どもの頃から料理やお菓子を作ることが好きだったこともあって、栄養の道に進むことに決めました。

母の介護によって本格的に進路を決める

4年制の専門学校入学当初は中学時代の経験から、"病院に就職する"と考えていたのですが、3年になってすぐの頃、母が脳出血で倒れて介護が身近なものとなりました。1年間母がリハビリ病院を転々とする中で、"食べる"ということの力を肌で感じ、またその後に在宅介護が始まった中でも、食を囲んで家族で過ごす時間の大切さを身をもって感じました。
まだ学生だった私とフルタイムで勤務している家族、そんな中、在宅介護のサポートをしてくれる在宅医、ケアマネ、ヘルパー、デイといった職員さんに助けられる日々での経験から、私も介護が必要な方にも食べる楽しみを感じてもらいたい、介護者家族のサポートなどができるようになればと、就職先として介護・福祉系を考えるようになりました。

多様な仕事を経験する中でたくさんの学びが

大阪府にある総合老人福祉施設に入職し既存施設にて学んだ後で、同法人内の新規施設にオープニングスタッフとして転属しました。給食業務・栄養業務の運営を立ち上げ、マニュアル作成、栄養ケアマネジメントと中心に、各種書式作成、行事起案、勉強会などを実施しました。食にこだわりをもった法人で、ホテル出身の調理師さんたちとともに、美味しく楽しく安全に安心して食べられる食事の提供を行いました。季節感や楽しみを演出した行事食にも力を入れ、利用者さんの"食べたい"という気持ちを引き出せる工夫を職員みんなでアイデアを出しながら取り組みました。

大事なのは参加者自身が楽しめる仕組み作り

「地域のつどい」にて

その後、各地域での介護予防教室で、65歳以上の介護予防対象者に対して、複合型の栄養改善プログラムで関わったり、閉じこもり予防事業で各地域の福祉会館などをまわり、歌やゲームを取り入れながら食・栄養についてお話したりする活動をしました。参加者自身が、「楽しんで学べる・気づく・実践する」ことができるような工夫を盛り込みながら実施していますが、毎回、こちらが参加者の方からたくさんの気付きをいただいている場でもありました。

また、診療所にて、働き世代やその家族の特定健診・特定保健指導を行いました。介護予防事業で関わっている世代とは異なる世代でしたが、働き世代の時からこその意識付けも重要であることを学んだ職場でした。ただ、仕事優先でからだのことは二の次という方が多く、対処法について勉強不足だと感じることも多々ありました。

たくさんの栄養士とつながれる場

介護予防指導士養成講座にて

健康・栄養に関する正しい理解と向上を図る栄養士活動団体でも活動しました。外部への情報発信や内部での勉強会などもあり、さまざまなチャレンジの場だけでなく、栄養士同士のつながりも深まる場でもありました。シニア向けのクッキング教室を開催したり、栄養士支援講座のシニア期の食に関する勉強会をしたり、各種講演・講師を今も担当しています。
フリーとして駆け出しの頃から、人前でお話しさせていただく機会をたくさんいただき、今につながっています。1人勤務のことが多い栄養士にとって、横のつながりや正しい情報を得られる場として、とてもありがたい場所だと感じています。

上手に食と向き合い付き合っていくための提案

内科・小児科・リハビリテーションに加え、健康診断・生活習慣改善などの疾病予防や健康管理にも力を入れ「健康管理のパートナー」を目指している、地域に密着したクリニックで、栄養相談や在宅訪問栄養食事指導、健康セミナーも担当させていただきました。
毎日の営みである「食べること」を通じて、その人らしい生活を送ることができるよう、セルフメディケーション(自己管理)ができるように、栄養・食の面からサポートさせていただきました。栄養相談は、生活習慣病の方が中心ですが、入院されていた方が病院で厳しい食事制限の指導をされ、「どうしていいのかわからない…こんなに制限されたら食べるものがない」と退院後、食に関して迷子になっていることがよくあります。そういう方のために、自宅で本人や家族が実施できる食事内容の提案をし、気持ちを軽くしながら、上手に食と向き合い付き合っていける見方にシフトチェンジできるように、心がけて対応しています。

薬局での栄養イベントの様子

2018年からは在宅訪問栄養も開始しています。低栄養や嚥下困難、生活習慣病などの患者さん、ご家族に対し、お家で安心して過ごせるように、身近な食生活の相談役として関わりながら、私自身も日々勉強中です。また、患者さんや地域住民、関連職種向けに、医師とタッグを組んで健康・栄養セミナーを行って、健康管理や食生活に関して、興味を持ってもらったり、考えるきっかけづくりの場を提供したりしています。

食べる人、作る人の気持ちになって

ケアマネ・ヘルパー出張指導の様子

最近では薬局内で個人の栄養相談や、レシピ関係のお仕事にも携わっています。地方スーパー食育サポートでは、毎月食育の日に実施している献立提案のメニューを納品しています。
スーパーの販促商品を使用したレシピやテーマに沿ったレシピを考えていますが、スーパーを利用する主に主婦層が自宅で再現しやすい作り方、作ってみたいものに、栄養バランスを組み込んで、提案するようしています。すべてにおいて、単に栄養価を考えたものではなく、食べる人、作る人の気持ちになって提案していけるよう心がけています。

やりがいを感じる時

福祉施設に勤務しているときは、口から食べられなかった利用者さんが、段階を踏んで口から食べられるものが少しずつ増え、本人も家族も笑顔になった瞬間はすごく感動しました。
栄養相談やセミナーなどに参加してくださっている方が、組み合わせを意識するようになった、食べ方を考えるようになった、からだに変化が見られてきたなど、対象者が食生活や健康について考えるひとつのきっかけとして関われていることにやりがいを感じます。 また、最近では、他職種との関わりも増え、様々な場面で食・栄養について求められてきており、そこに管理栄養士を呼んでもらえることは非常に嬉しく思います。
ちなみに、現在、「NPO法人アクティブ成育」の立ち上げ準備中です。城東区成育が地域住民にとって、いつまでも住みやすく健康的な街になれるようになることを目指し、その一員として地域を盛り上げているけよう、奮闘しています。 それ以外にも職務・職場経験があります。フリーランスを志されている方のお役に立つ情報もあるかもしれませんので、ご興味がある方は、こちらのプロフィールページから参考にしていただけたらと思います。

クリニックでの栄養指導

管理栄養士・栄養士を目指す方へ

栄養士といえば、給食を作ったり、食事制限がある方へのサポートをしたり、というイメージでしたが、それだけではないと感じています。単に栄養のことだけでなく、人のからだの仕組みや介護・制度のことなど、食以外に必要な知識も幅広く、それ以上に人間力が必要だと感じています。
『現場での経験なくして、成長なし』
最近は、調理などの現場を避けて栄養指導に携わりたいという声をよく聞きます。食を通じたサポートに関わる者として、やはり現場を知っておくことは重要です。自分で買い物、調理などをすることももちろん大切です。
また、人との関わりからたくさんの学びを得てほしいと思います。私自身、今も現場での時間やご縁を大切に活動しています。

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みんなのコメント( 2

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      2009日前

      賀茂様、コメントありがとうございます。
      本日は、ミドル・シニア層を中心に、『食を通して、笑顔でその人らしい生活を送ることができる』をキーワードに活動をしている管理栄養士の小林さんのインタビューコラムです。貴重なお話が詰まっておりました。

      拍手 3

    • ID: 313
      2009日前

      『現場での経験なくして、成長なし』というお言葉にぐっときました。

      拍手 5

WRITER

フリーランスとして活躍中の管理栄養士。 いろいろなことに積極的に挑戦して学ぶ姿勢で - 小林美貴さん

Eatreat 編集部

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