准看護士の資格も持ち、歯科医院で小児の摂食嚥下障害に取り組む数少ない管理栄養士の手塚文栄さん。今回は手塚さんの勤めるたかぎ歯科に訪問して、実際にお仕事の現場を見せていただきながら、お話をうかがって来ました。
小児摂食嚥下の対応には不十分
高齢者の摂食嚥下障害には病院や介護施設はいうまでもなく、様々な企業が参入し活性化しています。ペースト食をはじめとする介護食も、常食と変わらないといっても過言ではないほど多様な進化を遂げています。その一方で、小児の摂食嚥下障害に関しては、対応している病院も少なく、今回訪問した「たかぎ歯科」へは月50~60名の子どもたちが通ってきますが、片道1時間以上かけて来院される方も少なくありません。
食べることは学習行動
人は産まれれば、誰かから教えられることもなく原始反射で「『哺乳』することができます。それに対して、「咀嚼」は本能ではなく、学習によって身に付ける行動であるということは、あまり知られていません。
手塚さんの元を訪れるのは、脳性まひやダウン症、自閉症、発達障害など、咀嚼を学習することにたくさんの配慮が必要な子どもたちです。
咀嚼は『食べる』という行為の一部です。もし、咀嚼ができないと何が起こるのでしょうか? 咀嚼しなくても食べ物を胃に送ることは、食べたものの形状によっては可能です。しかし、噛まずに食べるということは、丸のみにするということです。食べ物の丸のみは誤嚥の危険性が高く、最悪の場合には窒息し、死に至る可能性があります。体が大きくなるにつれ、その危険性が増していきます。このような危険性を排除しておくためにも、幼少時によく咀嚼して、しっかり嚥下できるようになることが必要です。
普段、私たちが自然に行っている「食べる」という行為には、認知(食べ物を認識する)⇒捕食(唇でとりこむ)⇒食塊形成(咀嚼したり、唾液とこねたりして飲み込みやすい形に整える)⇒送り込み(舌の奥の飲み込みやすい位置に送る)→嚥下(飲み込む)といった様々な段階があり、小児摂食嚥下指導ではこれらをその子の状況に合わせて習得することが目標になってきます。
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実際の指導風景
食べるものは親御さんに用意してもらいます。実際に見せていただいた食事にはタンドリーチキン、きんぴらごぼうなどをペースト状に仕上げたものもありました。
摂食相談の初回は、院長が口腔内の形態や食べ方を評価して方針を決めます。方針に応じて口腔リハビリを行う歯科衛生士と食事の与え方や調理方法・栄養評価を行う管理栄養士の手塚さんにそれぞれ指示が出されます。手塚さんは子どもたちに持参したご飯を食べてもらいながら、前回保護者の方と実習した介助方法や食形態が現状に合っているか、子どもの方にどんな変化があるか、食べたときにどのような状態になっているかを注意深く観察し、次回までにどのような練習が必要か考えていました。
たかぎ歯科での実際の指導は状況に応じて1~3カ月に1回、しかも1時間という限られた時間であるため、日常の食生活が上達を大きく左右します。そのため指導の最後に手塚さんが書くアドバイス票は院長の了承を得た後、親御さんはもちろん、保護者経由で保育所などにも配られます。子どもたちの毎日の世話をする保育士さんや栄養士さんからの情報は貴重で、特に難しいお子さんはスムーズに連携できるよう、電話で情報交換したり、地域の多職種勉強会で担当者と顔見知りになったりするなど努めているそうです。
口をしっかり閉じて、ペースト食を飲み込めるようになったら、次は少しずつ固形に近い固いペースト食を口に入れていきます。もったりしたペースト食はつぶしたり、こねたりしながら唾液を混和することが必要となり、自然に咀嚼に必要な舌や顎、頬の動きが生まれ、食塊形成の大事な訓練になります。
こねる力が不十分だと口の中に食べものがたまって動かなくなっていきます。そのような場合に、ついつい大人は子どもにお茶などを飲ませて流しこもうとしてしまいます。しかし、手塚さんによると「これはもったいない介助」といいます。0.1mlにも満たない水をコーヒー用のマドラーを使って口に入れてあげるだけで、またもぐもぐと口が動きはじめ、だんだんと口の中の食物がなめらかな食塊になって飲み込まれていきます。つまりごく少量の水分を含ませることで食べやすくなり、それが咀嚼につながることを指導していました。
後編はこちら >>歯科医療での管理栄養士の活躍の場 〜たかぎ歯科 手塚文栄さんの現場〜後編
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