腸内環境があたえる健康への影響が明らかに
2014年から、農林水産省の研究委託事業「医福食農」の一つとして、「消化管環境に基づく食品成分の機能性研究の拠点整備」というプロジェクトが開始しました。「医福食農」とは、医療・福祉分野と食料・農業分野の連携を行う取り組みです。このプロジェクトは、消化管が全身の司令塔として果たしている機能を明らかにする研究ともいえます。
最近の研究で、腸内フローラのバランスによって、健康を維持できたり、健康を損なわれたりすることがだんだんわかってきています。腸内細菌の種類やバランスなどの腸内環境は、長期的に食べているものによって決まることが明らかになりました。そのため、腸内環境は、その人の食事の習慣によって、大きな差が生まれます。個人差を生む要因としては、日々の食生活以外にも、薬の服用状況、健康状態、生活環境、そして遺伝的なものなどが考えられています。それでは、私たちの生活の中で、どのようにして腸内環境を整えていけばいいのでしょうか。
食物繊維が腸内環境にあたえる影響
腸内フローラに関する研究が進歩する中で、もっとも注目されているのは食物繊維です。食物繊維は「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています。食物繊維は消化酵素の作用を受けずに、小腸を通過して大腸まで到達します。腸内細菌は、食物繊維をエサとして発酵し、短鎖脂肪酸を作ります。
短鎖脂肪酸とは炭素数が6個以下のものをいいます。短鎖脂肪酸はおもに酪酸・酢酸・プロピオン酸です。短鎖脂肪酸は大腸粘膜上皮細胞の栄養源となります。また、短鎖脂肪酸は、大腸を有害菌が嫌う酸性に保ち、有害菌の増殖を抑制する働きもあります。食物繊維の摂取は、比較的短期間に腸内細菌に影響を与えるとされ、血中の短鎖脂肪酸の濃度も変化します。
ここで、酢酸=お酢なので、「お酢を飲めばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、お酢を調味料として風味づけに使うのはいいでしょう。しかし、お酢を飲んだとしても、血液中に入るとすぐに分解されてしまうため、効果は一時的なものといわれています。また、酸性のため、取り過ぎた場合には、歯への影響も心配です。腸内細菌は、腸の中に食べ物がある間、ずっと酢酸を含む短鎖脂肪酸を作りつづけるため、短鎖脂肪酸の血中濃度も維持され、効果が長持ちするようです。
不溶性と水溶性の食物繊維
食物繊維には、不溶性と水溶性の2種類があります。不溶性食物繊維は、腸の蠕道(ぜんどう)運動を刺激して便のもとになり、便のカサを増します。水溶性食物繊維は、腸内環境を改善し、便をやわらかく、滑りをよくする作用があります。また、水溶性食物繊維は、胃や腸をゆっくり進むので、食べ過ぎも防いでくれます。
食物繊維は、野菜や穀類・豆・きのこ・海藻などに含まれています。不溶性と水溶性をバランスよく、なるべく多くの食材から摂るといいでしょう。ごぼう、玄米、納豆、バナナなどには、不溶性と水溶性のどちらの食物繊維も含まれています。
参考文献
おなかの調子がよくなる本─自分でできる腸内フローラの改善法─ 福田真嗣
ベストセラーズ 2016
消化管(おなか)は泣いています─腸内フローラが体を変える、脳を活かす─ 内藤裕二
ダイヤモンド社 2016
腸内フローラ10の真実 NHKスペシャル取材班 主婦と生活社 2015
腸内フローラ免疫力アップレシピ 藤田紘一郎 扶桑社 2015
おすすめコラム
腸内フローラって何?
妊娠中に注意したい食中毒①〜リステリアを知っていますか?〜
カッサは予防医学
コラーゲンの摂取は美容や健康に効果があるか?