1回目に引き続き、日本の主食である米とメキシコの主食であるトルティーヤの原料トウモロコシについて、③神々との関係、④主食以外の活用方法や加工食品への利用についてご紹介していきます。
前回のコラムはこちらからご覧ください。
米と神々との関係
日本では古くから米の収穫期を迎えると、感謝の意を込めて神棚に米をお供えする慣習があります。奈良時代に編さんされた播磨国風土記には「神社の神様に供えた米飯が古くなって、そこにカビが生えたのでそれで酒を醸した」という内容の記述があります。ここに記載されている「カビ」は後に日本の国菌となる「米麹」の原形といわれ、この頃から米と米麹によるどぶろく(日本酒)造りが始まり、平安時代からは「お屠蘇(とそ)」として元旦に飲まれるようになりました。お屠蘇には無病長寿と、悪い物を屠り※ 、よき者を招き入れますようにとの願いが込められています。
※屠り…打ち負かすこと
メキシコ版のどぶろく
メキシコには「Bebida de los dioses 」(神々の飲み物)と呼ばれるPulque(プルケ)、メキシコ版のどぶろくがあります。プルケは紀元前200年頃から続くメキシコの伝統的な飲料です。原材料は、8年以上成長したMaguey(マゲイ・和名はリュウゼツラン)の中心部に溜まったAguamiel(アグアミエル・糖蜜)です。神々の飲み物と呼ばれるゆえんは、アグアミエルに含まれる多くのプロバイオティクス成分が、人々にさまざまな健康効果をもたらしてきたことにあるようです。マゲイの種類はそれぞれ異なりますが、アガベシロップやテキーラ、メスカルなどの蒸留酒の原料にもアグアミエルが使われます。
メキシコではほとんど見かけないトウモロコシの醸造酒Chicha(チチャ)は、ボリビアやペルーなど南米で一般的に飲まれているようです。
プルケ専用のマゲイ
マゲイの中心部にあるアグアミエル
プルケ専門のバー、プルケリア。
一般的にシンプルなプルケに果物や野菜ジュースを混ぜて飲む。最近はワインやメスカルを混ぜた新しい飲み方もあるそう。
トウモロコシと神との関係
マヤ神話「ポポル・ヴフ」には、創造神たちが自分たちに奉仕し、言葉でたたえてくれる人類を作りだそうとする章があります。最初に泥と土、次に木の棒、最終的に神々はとうもろこしで4人の男性を作りおのおのに美しい妻を与え、彼らは人間の祖先になったとされています。また、黄・白・紫・黒・橙色などさまざまな色のとうもろこしが人間になったため、地球上には肌の色がさまざま異なる人種が生まれたとも書かれています。しかし、スペインの白人やアフリカの黒人と出会う前の時代に生きたマヤ人がなぜ自分たちと肌の色が違う人種の存在を知っていたのか…とても興味深いです。
トウモロコシの主食以外の活用法
メキシコでトウモロコシは主食として食べられる以外に、トルティーヤと同じ生地に具を包んで焼いたGoldita(ゴルディータ)、ピザのように具とチーズを乗せて焼いたTlayudas(トラユーダス), スナック菓子のようなTotopos(トトポス)や粉末をお湯に溶かして飲むAtole(アトーレ)など、さまざまに形を変えて食されます。
そして世界各地でも、家畜の食糧・植物油・コーンスターチ・果糖ブドウ糖液糖・難消化性デキストリンなどに加工されています。肉類・牛乳・お菓子・ジュース・特定保健用食品のお茶などの原材料に含まれているので、知らぬ間に私たちの生活に欠かせない食材になっています。現代人の身体の半分はトウモロコシで作られているという説もあり、前述の「ポポル・ヴフ」の世界が現代によみがえっているとも言えそうです。
昼食時に屋台で食べられることの多いゴルディータ。「ゴルディータ」はスペイン語で「太っている人」の意味。
参考文献
・稲垣栄洋:「世界史を大きく動かした植物」 PHP研究所 (2018)
関連コラム
・メキシコの肥満対策③
・日本とメキシコの主食の違い①