経腸栄養とは
生命を維持する上で必要な栄養を摂取する方法は大きく「経腸栄養」と「静脈栄養」の二つに分けられます。経腸栄養とは、消化管または腸管と言われる、口腔から肛門までの食物が通過する経路を使用して栄養を摂取する方法を指し、消化管機能が不十分であったり消化管が安全に使用できなかったりする場合には、静脈栄養が選択されます。
経腸栄養はさらに「経口栄養摂取」と「経管栄養法」とに分けられます。
経腸栄養は、身体の消化・吸収能を利用した最も生理的な栄養摂取方法であることから、代謝上の合併症が少ない、高エネルギーの補給が可能で維持管理が容易、腸管の萎縮による免疫機能低下が防げる、そして何より経済的といったメリットが静脈栄養と比較して挙げられます。
口から食べることの大切さ
栄養を摂取するというだけなら、経管栄養法を用いて生命を維持することはできます。しかし、口から食べるという行為は、単に栄養を補給するだけにとどまらない生理学的な意義があります。まず、食べ物を目でとらえる、そして匂いをかぐ、食べ物の温度を感じる、手を使って口に運ぶ、歯で噛む、味わって飲み込むという一連の行為はすべて脳の指令により行われていますので、口から食べることでさまざまな神経系統が活性化します。
次に、食べ物を食べた時に舌の味蕾細胞から脳に伝わって「おいしい」と感じた情報は「これは私の好物だ」などの記憶も引き出します。口から食べることで脳が刺激され、いろいろな感情や記憶が呼び起こされるので、認知症患者のリハビリにもなります。
そして、口から食べることで分泌される唾液はその自浄作用により口腔内を清潔に保ち、消化液として胃腸の負担を減らします。噛まないと唾液の分泌量が減って自浄機能が低下し、口に雑菌が繁殖して肺炎などの病気の原因となったり、胃腸の消化に必要なエネルギーが増えることで脳へいく血中酸素が減り、脳の機能低下の原因となったりします。
口から食べるということは、身体的にも精神的にも状態を健やかに保つために必要な行為ですが、食べる機能は毎日使わなければ衰えていってしまいます。一般的に筋力は1週間使わないだけで15~20%も低下すると言われていますが、高齢者ではさらに低下した後の回復に時間を要するので、あっという間に飲み込む力が失われて、口から食べることが難しくなってしまいます。そのため肺炎や脳血管障害などで絶食期間が生じてしまった場合は、一日も早い摂食嚥下リハビリテーションの介入が重要となります。すでに経管栄養法になってしまっていても、専門職の適切なアプローチにより経口摂取が可能になる場合もあります。
口から食べることは、「人としての尊厳」を守ることとも考えられます。
参照:大塚製薬工場ホームページ
http://www.otsukakj.jp/healthcare/iv/en/
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