高齢者の食事・介護食[在宅高齢者へのアプローチ]シリーズの第5回です。
在宅介護をスタートする際の悩みの一つに介護食調理があります。そこで、今回は自宅で使える介護食調理を楽にする便利グッズを、皆さんにシェアしたいと思います。
介護食を自宅で作るということ
普段、施設や病院に勤務されている管理栄養士・栄養士の皆さんは、厨房で当たり前のように嚥下調整食を調理し、提供していると思います。しかし、患者さんや患者さんのご家族が、病院や施設で当たり前のように配膳されていた嚥下調整食を自宅で作ることは、大きな障害になっているように感じます。以前入院されていた患者さんの中には、病院にいれば毎回食事を作ってもらえるから、退院したくないとおっしゃる方もいらっしゃいました。医療者としては、少しでも患者さんの不安、苦痛、ハードルを下げた状態で自宅に帰っていただきたいのが願いの一つでもあります。
便利グッズをご紹介
そこで、当院では、嚥下調整食を召し上がっている患者さんが自宅に退院される際、患者さんや患者さんのご家族、ケアマネージャーさん、ヘルパーさんなどを対象に調理実習を行っています。
調理実習では、調理技術があまりない人でも「介護食を作るのって、そこまで大変じゃないんだな」と思っていただけるような内容を心がけており、次のような便利グッズをご紹介しています。
①メモリ付きボトルケース
介護食では、とろみのある料理を度々作ることになります。水分にとろみをつけるには、コップに水分を入れて、とろみ剤を入れて、かき混ぜて、安定するまで待って…水分にとろみをつけるだけでも、1日に何度も作るとなれば、介護者の方の負担になることが考えられます。
そんな時、こちらのボトルケースを使えば、1日のはじめに水分にとろみ剤を入れてシェイクしておくだけで、まとめてとろみ付きの水分を作ることができます。冷蔵庫で保管し、摂取する時にコップに注げば、衛生的にも問題ありません。
②電子レンジ用炊飯容器
おかゆを召し上がる場合、毎回お鍋で一から作るのは大変ですよね。こちらの容器を使えば、ご飯に水分を加えて電子レンジで加熱するだけで、簡単におかゆを作ることができます。
③冷凍可能なプラスチック容器
毎回電子レンジでおかゆを作るのもいいのですが、一気にまとめて作りたいという方もいらっしゃると思います。そんな際には、炊飯器でおかゆを炊いて冷凍庫にストックしておけば、楽です。また、炊いたおかゆをペースト状にしてゼリー化剤で調整したものも、冷凍することも可能です。まとめて調整して冷凍しておけば、かなりの作業時間短縮につながるのではないでしょうか。
④冷凍可能な仕切り付きプラスチック容器
刻み食やペースト食など、調整に比較的手間がかかる食形態の場合には、まとめて調整して、冷凍保存しておくのが楽です。作業時間を集約するため、1回あたりの作業時間は長くなりますが、日中、調理以外にも介護が必要な介護者の方にとっては、有効な方法と考えられます。
⑤蓋つきプラスチック製摺木
刻み食やペースト食を作る際、ハンドミキサーやミルサー、ミキサーなどを使用することが多いと思いますが、食材によっては、摺木(すりき)で簡単にすりつぶせるものもあります。こちらは手のひらサイズですので、わざわざ大きな調理器具を出さずとも、対応できるという点で有用かもしれません。また、プラスチック製なので衛生面でも安心ですね。
無理なく続けられるように
食生活は日々続いていくものです。そして楽しみの一つでもあります。調理に手間がかかることが原因で、食事回数が少なくなったり、味気がないものになったりするのは寂しいですよね。栄養士として、食の楽しみも支援していきたいものです。
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