口から食べられなくなるきっかけの“摂食嚥下障害”
私たちは普段何かを食べる時、まず目で食べ物を確認し、口へ運びます。そして、口の中で食べ物の性質(硬さや大きさ)に合わせて顎や舌を動かし、飲み込みやすい形に変えてから喉へ送ります。食べ物が喉まで来たら、普段は呼吸をするために開きっぱなしになっている気管の蓋を、ぴったりとタイミングよく閉じます。そして食べ物を一気にゴクリと飲み込みます。その後は食道の筋肉がしっかりと動いて、一旦飲み込まれた食べ物が逆流しないよう、胃へと送ります。
食べ物を食べている時、自然とこのような複雑な動きが口や喉で起こっています。
これらの一連の動作はほんの数秒での出来事です。しかし、何らかの障害でこの流れのどこかが上手くできなくなってしまうことを、摂食嚥下障害と言います。
“おなか”で食べる「胃ろう」
摂食嚥下障害が重度になり、口や喉を使って食べ物を摂り込むことが難しいと判断された時に選ばれるのが、経管栄養法です。(※参考コラム:「経腸栄養、口から食べる大切さ」)
経管栄養法のうち、在宅や施設では、介護者の管理のしやすさから、胃ろうが多く選択されています。胃ろうとは、胃に小さな穴をあけ、そこへカテーテルを通して食べ物が胃へ直接入るような道を作ります。食道を通るように、カテーテルを通って食べ物は胃へ入るため、胃ろうはさしずめ、おなかに新しく小さな口が作られた状態とも考えられます。
胃ろうからの栄養摂取方法としては、簡便性や価格の面から液体の栄養剤が一般に広く使われていますが、最近では胃がより自然な動きを行える半固形状の栄養剤も多く選ばれるようになりました。また、カテーテルの詰まりさえ防ぐことができれば、家族と同じ食べ物を流動食にして胃ろうから摂り込むこともできます。
もう一度口から食べることも
一部の方にはいまだに、「胃ろうを造ると、一生口から食べられなくなる」と思われています。確かに食べ物を食べるという行為は上に記したように、とても複雑な動きであり絶妙なタイミングを要するものですので、障害の度合いによっては、経口摂取の再開が難しい場合もあります。しかし、正しい摂食嚥下機能評価とリハビリを受けることで、再び口から食べられるようになった例も数多くあります。
私が経験した例では、脳血管障害等で入院中の絶食期間が長く、摂食嚥下動作に使う筋力などの廃用(長い間使わなかったために、器官や筋肉の機能が失われたり、萎縮したりすること)により経管栄養となった方や、胃ろう手術後数年経過していたものの、普段から発語の多かった方などで再び口から食べられるようになった方がいらっしゃいます。特に廃用が原因の摂食嚥下障害においては、リハビリが大切です。硬くなった筋肉をほぐすだけでなく、機能に合った食べ物を食べることも直接訓練と言ってリハビリの一環として行われることがあります。現在、まだ胃ろうになっていない方も、口腔体操などを行うことで年齢関係なく摂食嚥下機能を保つことができます。
また、摂食嚥下機能が低下していると、汚れた唾液を誤嚥して肺炎を起こすリスクが高まりますので、併せて口腔ケアをしっかり行いたいものですね。
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