急激に加速する高齢化に伴い、物を噛む力や飲み込む力の低下した人に提供する嚥下食への注目度が上がっています。そんな中、京都市左京区の比叡病院では、嚥下食に力を入れており、嚥下食メニューコンテストや病態栄養学会でのレシピコンテストをはじめ、多くのレシピコンテストで優秀な成績をおさめています。
比叡病院ではどのような取り組みをおこなっているのか? 同病院の管理栄養士の山本茂子様にお話をうかがいました。
患者さんたちの楽しみである食事を最大限おいしく!
「比叡病院の入院患者さんの数は50名前後で、食事を摂っておられる方は30名前後です。中には外出・外泊ができない患者さんもいらっしゃいます。このような患者さんにとって食事は楽しみの1つです。
比叡病院で出される食事は、治療食として一般的なペースト状の食事だったのですが、平成27年3月、病院給食が委託から直営に変わったことがきっかけとなり、レシピコンテストで賞をいただけるような、今までにない嚥下食が生み出されるようになりました。
それまでは、一般的な治療食であるペースト状の食事を提供していたのですが、直営となり自分たちで食事を一から作ることになって、味はもちろんのこと見た目にもおいしい食事を提供できないか、ということになりました。
しかし、当初は何をどうしていくかという戦略も、具体的な目標もありませんでした。もちろん、コンテストに出してみようという雰囲気もまったくありませんでした。
ただ、患者さんに食事をちゃんと食べてもらうためにはどうしたらよいか?患者さんが満足する食事はどのようなものか?うちでもおいしい嚥下食を作ることができないか?という思いだけは、とても強かったため、調理師さんに「おいしくて見た目もいい嚥下食が作りたいんです!」と相談をしてみたところ、「やってみよう!」という心強い返事をもらえ、そこから試行錯誤が始まりました。」
偶然、舞い込んできたレシピコンテスト
「実際に色々と試しながら作ってみると、自分たちでもおいしい嚥下食を作れることがわかってきました。
一人が素晴らしい嚥下食のレシピを完成させると、周りのスタッフ達もそれに続けと言わんばかりに、新しい嚥下食の開発にチャレンジをするようになりました。そして、そのようないい流れができた時にレシピコンテストの話が舞い込んできました。
経験が浅い上に準備期間も短いという大変厳しい状況ではありましたが、初めてのコンテストにもかかわらず優秀賞に選ばれるという快挙を達成することができました。」
素晴らしい嚥下食をもっと広めたい
この時、山本さんご自身が思い悩んでいたことは、比叡病院の広報として自分にはどのようなことができるのか?ということでした。
せっかく調理メンバーが試行錯誤して作った料理が素晴らしいものでも、広まっていかなければそこまでです。
「これをもっと世の中に知ってもらうためにはどうしたらよいのだろう?」
そして、山本さんは地元の新聞社などに直接手紙を送って、比叡病院の活動をPRすることにしました。
その結果、京都新聞や朝日新聞などで取り上げられ、比叡病院で提供される嚥下食の素晴らしさが世の中に知れ渡ることとなりました。
「食べることは生きること」を実感
「他の病院の方に驚かれるのですが、比叡病院では残食が0の時もあります。このことは、食べる楽しみや喜びを、患者さんご自身が感じていることの表れだと思っています。
常食と嚥下食とでは、見た目でもおいしさという点でもどうしても差が出てしまいます。
比叡病院では情熱と工夫によって、見た目も実際の味も常食に負けないくらいおいしい嚥下食の開発と提供を心掛けています。
たとえば、嚥下食の手まりずしがメニューだった時には、患者さんから「こんな料理が食べられるなんて!」と感動され、中には泣き出される方もいらっしゃいました。また、患者さんだけでなく、ご家族のみなさんも比叡病院の料理にいつも驚かれています。
最近はしっかり食べることで体力が付いて、他の施設へ移動される方も多くなってきました。残念ながら亡くなってしまう方でも、亡くなる直前まで「おいしい、おいしい」と食事を楽しんでしっかり食べられており、食事を楽しむことの大切を肌で感じています。
食べることは生きることにつながります。」
大事なのは作り手のモチベーションを保ち続ける工夫
患者さんがおいしく食べ続けられるためにどのようにしたらいいか? そこには作り手のモチベーションを保ち続ける工夫が必要不可欠になります。
今、山本さんはご自身が広報として様々な情報発信を行い、調理スタッフのモチベーションを上げながら、常にクオリティーの高い食事を提供できるチーム作りを行っています。
実際に食べてみました!
味+見た目+香りのコラボが感動的でした。
①トマト
②鶏の照り焼き
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