特養で働く管理栄養士の仕事とは?
私は特別養護老人ホームで、施設側の管理栄養士として勤務しています。特別養護老人ホームはよく特養と略称で呼ばれます。私が働く特養では、給食運営については発注から調理業務までを委託会社が行っているため、私のおもな業務は入所者の栄養ケアマネジメントや献立作成、衛生管理などです。
施設で働いているのは、施設長、ご家族との連絡相談を担当するソーシャルワーカー、介護を担当するケアワーカー、看護師、清掃や送迎のアテンダントなどです。「特養の管理栄養士です」というと「1人で大変だね」とよくいわれます。確かに職場にいる管理栄養士は私1人ですが、そうは思わないようにしています。
利用者の方々にとって生活の場である特養は、ただ介護を受けるだけの場ではなく、穏やかに心地よく過ごしていただくための支援の場です。急性期の病院のような大きな変化はありませんが、利用者の状態は天気や気温のように毎日少しずつ緩やかに変化しています。その変化にスタッフが気づくことが、利用者に心地よく過ごしていただくためのポイントとなります。
利用者のケア内容は、看護師、ケアワーカー、ソーシャルワーカー、管理栄養士で、半年に一回カンファレンスを実施して見直しています。食事だけでなく、排泄や睡眠、日常の過ごし方などの生活全体を考えるために、チームの一人として、管理栄養士の業務にあたっています。チーム医療という言葉がありますが、よりよいケアの実現のためには、介護現場でも同様に他職種の連携が必要となります。大切になるのは、それぞれの職種による気付きです。何か気付きがあれば、定期カンファレンスを待たず、ケア内容を随時見直すことも多々あり、食事形態の見直しがその例です。食事形態を変えるときには、一週間のお試し期間を設けています。施設には摂食嚥下の評価ができる言語聴覚士がいないため、多くのスタッフの目で見て、咀嚼嚥下状態を確認して、決定しています。
情報収集の方法として
利用者に関するできごとはすべてパソコンソフトで管理しています。カルテのようなもので、全職員が記録します。以前は毎朝、施設長、看護師、夜勤ケアワーカー、ソーシャルワーカー、管理栄養士が集合し、申し送りを行っていましたが、業務内容の見直しで、今はパソコンソフトで毎朝、利用者の状況をチェックして、不在にしていた時間の情報を確認しています。喫食量や水分摂取量、食事摂取の様子の他にも、排泄状況や転倒、いつもと違う行動がみられたなど、直接食事に関わらないことも確認しておくことが重要です。認知症や脳梗塞の影響で、急に食べ方が変わったり、反応が鈍くなったりしますので、介護士にしかわからない「いつもと違う行動」は重要な情報です。
昼食時やおやつの時には利用者の様子を見てまわります。朝の情報を元に、気になる方を中心にまわっていきます。毎朝の申し送りがなくなった分、ご利用者の様子を自分の目で確認しつつ、ケアワーカーや看護師にも様子を聞きながら情報を集めています。食事の摂取量が少ない方に対して、管理栄養士一人の目では、食べられないのは噛めないからなのか?味に問題があるのか?嫌いなのか?と直接的な原因を予測しがちです。しかし、他職種に聞いてみると、いろいろな原因が浮かんできたりします。たとえば、排便が数日ないから、便秘なのかもしれない、行動に変化があるため、認知症状が進んできているかもしれない、他ご利用者とトラブルがあって気分が落ち込んでいるのかもしれない、、実は前日に家族と出掛けてご馳走を食べてきたなど原因はさまざまです。的を射た栄養ケアマネジメントをするには多職種による正しいアセスメントが必要だと日々感じています。
楽しみの提供として
生活の中には楽しみも必要です。その一つとして、毎月の給食会議では行事食を企画しています。回転寿司バイキングやおでんパーティー、ソフトクリーム作り、チョコレートフォンデュなどを行なっていますが、委託会社が協力的だからこそできることです。利用者からの「またやってちょうだい」という声を耳にすると、少々準備が大変でもがんばってしまうものです。その他にお花見や初詣などの行楽に付き添うこともあります。なかでもいちご狩りでは、ふだん食が細い利用者がこのときばかりはと、たくさん食べられる場面が見受けられます。意欲向上にはさまざまな支援の方法があると実感しています。
特養は利用者にとって最期を迎える場にもなります。食事を拒否し、日に日に体力が低下していく利用者を前に成す術がなく、何もできない自分に無力さを感じることもあります。
何か食べたいものはないか?少しでも口にできるものはないか?と、ケアワーカーと考え、アイスクリームを用意してみたり、ゼリーを提供してみたりと、試行錯誤してみても、食事拒否はなくならず、結果お亡くなりになられることもあります。そんなとき、ご家族から「いろいろ考えてくれてありがとう」と仰っていただけると、救われた思いになります。
食事が食べられなくなったり、急な状態変化があったりと、その方によって最期はさまざまです。何が正解なのかはまだまだわかりませんが、少しでも施設に居てよかったと、ご本人やご家族に思っていただけるよう、これからも試行錯誤をしていきたいと思っています。
特養は様々な疾患を抱える方が多いので、医療現場での経験があるといいと思いますが、私は企業勤務から、いきなり飛び込み、現場で学んでいきました。まだまだ学びの途中ではありますが、利用者の心地よい生活を支援するための、いちスタッフとして、利用者にも他職種にも必要とされる管理栄養士を目指して日々奮闘中です 。
将来的には高齢化がさらに進んでいきますので、高齢者施設の現場を目指す管理栄養士が増えることを願っています。
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