ここからは、具体的にどんな食品が嚥下食として食べられているかを見ていきます。
前回まではこちら。
『嚥下食とは ①~役割と嚥下のメカニズム~』
『嚥下食とは ②~嚥下機能の評価と食事の分類~』
『嚥下食とは ③~嚥下食ピラミッド~』
嚥下食の物性について
嚥下食で重要となる物性は、かたさ、付着性(口の中でのくっつきやすさ)、凝集性(口の中でのまとまりやすさ)の3つの指標で測ることができます。
それらを調整しながら、
・時間をかけて柔らかく調理する
・ゼラチン・寒天などを使ってゼリー状にする/柔らかい寄せものにする
・汁ものにでんぷんなどでとろみをつける
などの加工で食べやすく飲み込みやすく工夫していきます。
液体によるむせ込み、誤嚥を防ぎながら安全に水分を摂り、脱水などを予防するために、必要に応じてとろみ調整剤が使用されることがあります。食物や飲料にとろみをつけることで、口の中の食塊の形成(飲み込みやすいように口の中で食べ物の塊をつくること)を助け、咽頭への流れ込みの速さを遅らせて、誤嚥を防ぐことが期待できます。
とろみをつけるために使われる素材には寒天、ゼラチン、ゲル化剤、デンプン、とろみ調整食品などがあります。それぞれ硬さなどに特徴があり、目的に合わせて使い分ける必要があります。
市販の介護食品を上手に利用する
市販の介護食品には、レトルト、フリーズドライ、冷凍食品、カップ入り食品、ゼリー飲料などさまざまな種類があります。栄養面でも強化されているものが多いので、充足させにくい栄養素を満たすこともできます。
市販の介護食品を選ぶ際に参考になるのが「ユニバーサルデザインフード(UDF)」です。
以前は日本介護食品協議会が制定した規格に適合する商品についているマークでしたが、現在は区分を表す番号が削除され、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」など文言での表示に変わりました。
とろみ調整食品とは
食べ物や飲み物に加え混ぜるだけで、適度なとろみを簡単につけることができる粉末状の食品です。また、ゼリー状に固めることができるタイプのものもあります。とろみをつけることで、飲み物や食品が口の中でまとまりやすくなり、ゆっくりと喉へと流れます。
日本介護食品協議会では、とろみの状態についてメーカー間の表示を統一し、とろみのつき方を下図のように、4段階のイメージで表現しています。(商品によっては3段階で表示する場合もあります)
各メーカーの商品パッケージに表示されている使用量の目安を確認の上、ご利用ください。
※飲み込みの程度や状態は人それぞれです。医療機関の専門家にご相談ください。
毎日の介護食をすべて用意するのは家庭でも施設でも負担が大きいものです。上手にこういった食品を利用することも大切です。
また、食事に時間がかかったり、とろみをつける際にどうしても水分量が多くなる傾向にある介護食では、低栄養になったり、必要な栄養素が十分に取ることが難しい場合もあります。そこで、栄養補助食品を利用することも必要となってきます。たんぱく質調整食品、水分補給ゼリー、流動食品などがあります。エネルギー、脂肪、ミネラル分など、不足している栄養素をその時々で選ぶことができ使い勝手の良いものです。
高齢化の進む日本で重要性の増す嚥下食ですが、高齢者だけでなく、様々な精神的・身体的障害のために食事が困難な方も多くいます。若い患者さんはより多くのエネルギーを必要としているため、低栄養にならないよう、より一層の配慮が必要です。
嚥下や摂食に障害があっても、人間としての尊厳とQOLを維持していけるよう、嚥下食や介護食はこれからますます研究が進む分野といえるでしょう。
参考文献
・『口から食べる嚥下障害Q&A 第4版』 藤島一郎 2011年 中央法規出版株式会社
・日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013 https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
・平成28年版高齢社会白書(概要版)http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_1.html
・嚥下食ドットコム http://www.engesyoku.com/
・日本介護食協議会 http://www.udf.jp/index.html
・『介護食ハンドブック』 手嶋 登志子編著 2010年 医歯薬出版株式会社
・『病院・施設のための嚥下食ピラミッドによる咀嚼・嚥下困難者レシピ100』栢下 淳 編著 2009年 医歯薬出版株式会社
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