• COLUMN

昔から刑務所の食事は「クサい飯」と呼ばれ、これには諸説あるといわれています。しかし、刑務所給食に携わっている栄養士の立場からすれば、聞き捨てなりません。栄養士の皆さんなら共感していただけるのではないでしょうか。

法律に遵守した給食運営

刑務所は国の施設で、その給食は法務省の訓令に基づいて実施されます。「主食は麦飯で、米対麦が7対3であること」、「米は玄米を購入し、精米の搗精(とうせい)率は0.93~0.94、つまり1㎏の玄米を出来上がり量930~940gに精米すること」といった具合で、細かく決められています。
主食の量は仕事量と身長に応じて決まり、成人男子の場合、立ち仕事はA食(1600kcal)、座り仕事はB食(1300kcal)、居室で過ごす人はC食(1200kcal)です。これに身長180㎝以上の場合は加算される仕組みです。副食は全員同一で1020 kcalが基準です。

A食の受刑者が何か反則調査により不就業となると途端にC食になるのは、一般給食施設とは違って刑務所ならではと感じます。

刑務所給食で最も重要なこと

刑務所給食で重要なことは、「平等」です。刑務所では自由な飲食ができず、酒タバコのような嗜好品もありません。食事への執着が強くなるのは自然なことでしょう。盛り付けに不平等を感じた受刑者が不満を訴えることはよくあります。ですからこの点においては非常に気を使います。例えば、個数が目立つ「うずらの卵」は使いません。
そして「安全」も重要です。串などの鋭利な物は危険物ですから出せません。凶器にされたら困ります。また、違反を誘発する可能性があるため、バナナを丸ごと1本皮付きで出すことは辞めました。その理由は、なんとバナナの皮からはタバコができるそうです。これには驚きですね。

予算は厳しくても給食で楽しみを作りたい

材料費は地域や規模によって異なり、令和3年版犯罪白書によると成人の受刑者1人1日あたり副食費が431.67円です。そこに主食分が加わり、1日3食で536.07円と厳しいです。献立は一般の施設と同様、健康的であることはもちろん、季節や行事を反映させたり、嗜好調査の結果を反映させたりして計画します。食材費は税金ですし、少しでも安価に入手できるように努めています。安い食材でも手間をかければおいしくできる料理もあります。例えば、冷凍食品を揚げるだけでなく、揚げてからソースを絡める。人手が多い時には、手作りハンバーグに挑戦する。そんな取り組みを始めたのは、彼らに「やりがい」や「達成感」を感じて欲しいからです。

おいしく作りたいから教えてください

栄養士の私と同じく、炊場の彼らだっておいしく作りたいと思っています。
以前からポテトサラダが水っぽいと感じていた私は、調理指導に行きました。少なめの水で、蒸すようにじゃがいもをゆで、ザルにあげます。いい感じのホクホク感に仕上がり、冷ましておくようにA君に伝えました。しばらくして振り向くと、なんとA君、じゃがいもにジャージャー水をかけていました。「ちょっと待って! もしかして、今までずっとこのやり方?」そうなんです。彼らにとって冷ますとは水冷との認識だったのです。
彼らは時に思いがけないことをしでかすため、炊場から呼ばれるたびに笑いのネタが増えていきます。今までの数々のネタをすべて書ききれないのが残念です。

2020年11月 愛知の郷土菓子「鬼まんじゅう」
生地が手から離れにくく、均一な大きさ、形にするのが難しく、時間がかかりました。

 

参考文献
・令和3年版犯罪白書、法務省法務総合研究所、令和3年12月発行、62ページ

 

関連コラム
受刑者がつくる刑務所給食とは
刑務所給食を通して受刑者に伝えたいこと

コメントを送ろう!

「コメント」は会員登録した方のみ可能です。

みんなのコメント( 1

    • Eatreat 編集部
    • Eatreat 編集部
      749日前

      刑務所で働く管理栄養士の黒柳さんに刑務所給食について紹介していただく連載記事第2回目です。

      拍手 4

"管理栄養士・栄養士の仕事のリアル!"のバックナンバー

もっと見る

WRITER

クサい飯なんて言わせない!

黒栁 桂子

皆さんが知ってる刑務所給食とはどんなイメージでしょうか。俗に「クサイ飯」などと揶揄されますが、とんでもありません。 私が作成した献立を「クサイ飯」だなんて言わせてたまるか!そんな気持ちでつくっています。 管理栄養士歴28年 病院では栄養指導、老人施設や学校では給食管理、講師業では料理教室やセミナー等を開催してきました。 今後特に力を入れていきたいのは「食育」です。 食育というと子ども対象に考えられがちですが、大人にも必要だと気づきました。そして料理超初心者男性向けの料理教室を10年間開催し、その受講生はのべ1000人を超えます。その経験を男子刑務所の中で活かしています。

黒栁 桂子さんのコラム一覧

関連タグ

関連コラム

"管理栄養士・栄養士の仕事"に関するコラム

もっと見る

ログインまたは会員登録が必要です

会員登録がお済みの方

ログイン

まだ会員登録をされていない方

新規会員登録

ページの先頭へ