2019年に改訂された授乳・離乳の支援ガイドでは、災害時の栄養に関して、災害時と平時の支援におけるポイントや事例が盛り込まれました。多くの皆さんがあらためて災害時支援について考え、いざという時に備えられるよう、前編・後編で解説をしていきたいと思います。
災害が起きたら…災害時の栄養問題
災害時は水分や食事が制限され、偏った食生活を強いられるため、授乳婦や乳幼児の食事には特段の配慮が必要です。そのため、まずは授乳婦や乳幼児の所在の把握を最優先に行います。授乳婦は、母乳を作るために非妊娠時よりも350kcal/日のエネルギーの付加が必要です。母乳を安定して分泌させるためにも、授乳婦には十分な食事の提供とビタミンやミネラルの補給が重要です。また、平時と比べて衛生面の確保が困難な状況のため、抵抗力の弱い乳幼児には、より衛生面に配慮した環境を整えることが大切です。
離乳開始前の赤ちゃんへの対応
災害時に母乳育児をすることで、乳児の感染症のリスクが低減されることが報告されています。非常時のストレスから、母乳が一時的に出ないこともありますが、おっぱいを吸わせることにより、再び母乳が出ることもあります。おっぱいを吸わせることは、スキンシップやストレス軽減に良い効果があるとされているので、安心して授乳できる環境として、プライベート空間を確保ができるように配慮しましょう。授乳量が足りているかは、乳児の元気度と尿や便の回数で確認しましょう。おむつがしっかりと濡れるくらいの尿が一日に6回以上あれば、授乳量は足りていると判断できます。
離乳開始前の赤ちゃんへの対応(母乳代替食品の利用)
母親が安心して授乳を続けられる支援は継続して必要ですが、授乳量に不安を感じる場合は、母乳代替食品を使って混合栄養も検討します。母乳代替食品には、粉ミルクと液体ミルクがあり、いずれも衛生面に配慮した調乳が必要です。ミルク用の水には飲料水を使いますが、硬度が高い水は、腎臓への負担や消化不良を引き起こす恐れがあるため、硬度の低い軟水を使うことが望ましいです。
また、輸入品のミネラルウォーターの中には、硬度の高い水や非滅菌の製品もあるので、ミネラルウォーターを使う場合は、国産のものを使用します。水道水や汲み置きの水を使う場合は、なるべく当日のものを使用しましょう。粉ミルクは70℃以上を保ったお湯で調乳することが推奨されています。お湯の利用が困難な場合は、乳児に適した衛生的な水を使って調乳します。炊き出しなどの環境が整ったら、哺乳瓶や乳首の消毒の方法を指導し、衛生環境を整えていきましょう。使い捨てタイプの哺乳瓶もありますが、成長に応じた乳首が確保できないケースもあります。その場合は、スプーンやカップでミルクを与えることを推奨しています。
ここで、便利なカップを使った授乳方法(カップフィーディング)についてご紹介します。
カップを使った授乳方法(カップフィーディング)
1.赤ちゃんが穏やかに覚醒していること(眠くないこと)を確認します。
2.赤ちゃんの手がカップにぶつからないよう赤ちゃんを布で包みます。
3.赤ちゃんを縦抱きにします。
4.カップに少なくともカップ半分以上の搾母乳・人工乳が入った状態にします。
5.赤ちゃんの口元にカップを近づけ、少し傾けます。赤ちゃんが口を開けた時、カップ が下唇の上で静止し、乳汁が赤ちゃんの上唇に触れます。下唇に圧をかけないようにします。
6.軽くカップを傾け 2~3 滴乳汁を赤ちゃんの口に流し込みます。
7.カップの位置をそのままの状態に保ち、赤ちゃんが自分のリズムで飲めるようにします。必要なら休憩し、赤ちゃんが飲まなくなったらやめます。
離乳食開始後の赤ちゃんへの対応
離乳食を開始している赤ちゃんへは、以下の表を参考にして、確保されている食品や炊き出しの味噌汁や煮物を使い、離乳食を作ります。
離乳食を作る際は、加熱状態や食器などの衛生管理には十分注意をしましょう。赤ちゃんの消化吸収能力に応じた形態や食品を優先して与えますが、実際には適した形態の食品がなく、母親が噛み潰したごはんを赤ちゃんに与えることもあるようです。そのため、災害時に備えてベビーフードを日頃から多めにストックするのも良いでしょう。
ベビーフードの利用のコラムでも解説しましたが、ベビーフードにはさまざまな形状と用途があるので、使い慣れておくと災害時に利用する際に安心感があります。最近では、保育園で積極的に災害時用の備蓄を行っているようです。災害時の備えとして、避難訓練と同様に備蓄品を使った給食や間食の提供、災害時に乳幼児を守るための栄養ハンドブックのリーフレット配布なども行われるようになるのが理想です。
後編では「いざという時に備えるための要点」について解説します。
後編を読む。
参考文献
『赤ちゃん防災プロジェクト』が始動!日本栄養士会災害支援チーム/日本栄養士会HP
https://www.dietitian.or.jp/news/information/2018/164.html
避難生活で母子に生じる健康問題を予防するための栄養・食生活について
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/info/pdf/boshi_pro.pdf
※1赤ちゃん防災プロジェクト災害時における乳幼児の栄養指導の手引きより
https://www.dietitian.or.jp/news/upload/images/aec041f33071d6c0a7b768074ebeb34cf966e0cc.pdf
※2災害時に乳幼児を守るための栄養ハンドブック(2019年4月)
https://www.dietitian.or.jp/news/upload/images/38b6b832444fbf45e58316b947b4b30d9a448c29.pdf#search=%27災害時に乳幼児を守るための栄養ハンドブック%27
※3要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/guidebook/pdf/need_consideration_stockguide.pdf
※4災害時における授乳の支援並びに母子に必要となる物資の備蓄及び活用について
http://www.bousai.go.jp/oyakudachi/pdf/siryo_46.pdf
※5三重県初めて液体ミルク備蓄へ
https://www.isenp.co.jp/2019/07/19/34237/
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