「授乳・離乳の支援ガイド」は、育児を支援する中でさまざまな場で活用されています。今回の改訂では、医師、歯科医師、助産師、保健師、管理栄養士などが参画し、それぞれの専門領域から集約された知見に基づいて検討がなされました。前回の改訂から10年経過し、科学的知見の集積、育児環境や就業状況の変化、母子保健施策の充実など、授乳および離乳を取り巻く社会の変化が著しい中での今回の改訂のポイントを前編・後編に分けて解説していきます。
2019年改訂版のポイントは主に4点
主な改訂ポイントは下記の4点です。
(1)授乳・離乳を取り巻く最新の科学的知見等を踏まえた適切な支援の充実
授乳や離乳の中には経験的に言い伝えのようなものもいまだに残っているのではないでしょうか?お餅は母乳が詰まりやすいから食べるのを控えた方がいいという説があったのですが、経験的に基づいた指導から、逆に母乳の出がよくなるから食べるべきだといった具合に、より最新の科学的知見や研究結果が充実した内容となりました。
また、離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせることは、食物アレルギーの予防効果があるとされてきたのですが、実は科学的根拠がないことから、生後5〜6ヶ月頃から離乳を始めるようにした方がいいといったことも例に挙げられます。さらに、近年国内ではあらゆる災害時の授乳・離乳の支援についても、事例で実践例の記載や、乳児用液体ミルクについての情報などが加わっています。
(2)授乳開始から授乳リズムの確立時期の支援内容の充実
母乳育児に関する妊娠中の考えとして「母乳で育てたい」と思った者の割合は、依然として9割を超えています。実際の栄養方法を見ると下記の表のようになっています。
母乳育児に関する妊娠中の考え別授乳期の栄養方法(1カ月)※2
記載には「子育て世代包括センターやそれに準ずる施設を通して、継続的な支援や情報の提供などを充実させる」とあります。子育て世代包括センターの助産師や管理栄養士などの専門職のスタッフによる、妊産婦期から離乳期へと切れ目のない支援の提供体制によって、母子保健に従事する側にとっても、さらなる工夫や連携・協働が求められることになります。
(3)食物アレルギー予防に関する支援の充実
食物アレルギーの動向として3歳時点における食物アレルギーの有病率が増加傾向にあり、年齢が低いほど多いとされています。先にも触れましたが、「離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせることに食物アレルギーの予防効果がある」という科学的根拠のない説などは、離乳を始めるにあたっての情報提供の際に伝えたいものです。
前回のガイドでは食物アレルギーに対しての情報は参考資料のみの提示でしたが、今回は、より具体的な内容が記載されています。その一例として、食物アレルギーが疑われる症状が見られた場合、自己判断せずに必ず医師の判断に基づいて進めることなどが挙げられます。中でも特に、大きく変化した食物としては「卵」があります。前回までのガイドでは卵(固茹での卵黄)は、離乳中期(8カ月頃以降)からの摂取となっていましたが、今回からは初期の後半頃となる6カ月以降と前倒しとなっています。また、「妊娠・授乳中の母親の特定食品の摂取や除去は、予防効果がない」という点も明記されたことは知っておきたい変更点です。
(4)妊娠期からの授乳・離乳等に関する情報提供のあり方
インターネットをはじめとした情報過多の環境のもと、判断に迷う、間違った情報を鵜呑みにするような時代となりました。「Ⅱ授乳及び離乳の支援」の内容では、このような時代の情報提供のあり方について補足が加えられました。情報通りの育児にならない毎日は、母にさらに不安やトラブルをもたらします。「我が子と関わりながらさまざまな方法を繰り返し試し、少しずつ慣れていくことで安心して対応できる」ようになるためにも、保健医療従事者が母親の気持ちや感情を意識的に受け止め、寄り添いながら適切な支援を行うことは、母親が母親として少しずつ自信が持つために必要な支援となるでしょう。
母親の不安要素の一つに赤ちゃんの成長の個人差があります。授乳量や離乳食の量や進め方など「数量」を中心とした授乳・離乳の評価ばかり気にするのではなく、乳幼児身体発育曲線のカーブに沿った成長発達であるかを観察し、赤ちゃんそれぞれに対してきめ細かい支援を各機関で連携しながら進めていくことが重要ということも押さえておきたいポイントですね。
後編では「授乳・離乳の支援ガイドに沿った離乳食の進め方」について解説します。
後編を読む。
参考文献
厚生労働省「離乳・授乳の支援ガイド」https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf
※1 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂版)の概要より
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496256.pdf
※2 厚生労働省「平成 27 年乳幼児栄養調査」(2016)
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