“ベジタリアン”という言葉は、これまでも耳にする機会はありましたが、近年ではベジタリアン用の料理を置く店や、専門店も増えてきています。
“ベジタリアン”とは、英国のベジタリアン協会が1847年頃に使い始めた言葉です。ラテン語の“vegetus(ベジタス)”に由来し、「健全な、新鮮な、元気のある」という意味を持っています。そして、“vegetable(野菜)”と“tarian(人)”を造語して、“vegetarian”という言葉となりました。日本語では“菜食主義者”と呼んでいます。
今回はその“ベジタリアン”の食事について、ご紹介していきます。
ベジタリアンの背景
“菜食主義”は英国だけでなく、インドや台湾など世界中に広がる文化です。
台湾(中国・香港含む)での“素食”も、“ベジタリアン”と同義の意味を持ちます。
背景としては、宗教が生活の土台となっていること、動物愛護(アニマルライツ)、環境保全、健康志向などさまざまです。また、動物性食材に食物アレルギーを持っていると、ベジタリアンの食事で生活する人もいます。
ベジタリアンでも、動物性食材を食べる人もいる
ベジタリアンの中には、一部の動物性食材を食べる人もいるなど、その種類はさまざまです。
ベジタリアンの種類(呼び名)を下表にまとめました。
ラクトベジタリアンとオボベジタリアンを組み合わせた“ラクト・オボベジタリアン”と呼ばれる「乳と卵は食べて良い」とされるベジタリアンの種類もあります。
また、その他に次のような方々もいます。
ベジタリアンを“菜食主義者”と呼ぶのに対し、ヴィーガンは“完全菜食主義者”と呼んでいます。ヴィーガンの定義ではちみつを食べない理由は、蜂が集めた花の蜜を人間が奪ってはいけないという説によります。蜂が一生で集めるはちみつの量は、ティースプーン1杯程度といわれているそうです。
また、ヴィーガンは革製品(靴、洋服、鞄など)も身に着けません。日本で開催されたヴィーガンマーケットでは、革製品の代わりに、コルクなどを使用した製品を販売しています。
オリエンタルベジタリアンは、アジア圏に広がります。彼らの避ける“五葷”は、主に香りの強いユリ科食材を指し、宗教上食べてはいけないものに由来しています。
フルータリアンは、果実や木の実しか食べません。これらを収穫しても、元となる植物自体は死なないからという思想によります。
菜食文化先進国の様子
元来、菜食文化が根付いている英国、インド、台湾の様子をご紹介します。
英国
ベジタリアン・ヴィーガン先進国です。夕食のおよそ30%は、肉、魚介類を食べないといわれています。そもそも動物愛護、地球環境保全などの思想が強く、国として法整備も進んでいます。近年では、若者を中心にベジタリアン・ヴィーガン人口増となっているようです。
インド
ヒンドゥー教、ジャイナ教といった宗教が生活の土台となっています。
どちらも動物性で命あるもの(肉、魚介類、卵)は食べません。
特にジャイナ教では、不殺生を貫くような思想です。根菜・球根類は、収穫時に土中で生きている虫を殺してしまう可能性があるため食べないことや、はちみつもヴィーガン同様の理由で食べません。
台湾
1980年代以前より、仏教、道教信仰から、“素食”と呼んで卵、乳、五葷を食べない文化です。ベジタリアンの種類のように、一部の動物性食材を食べて良いとする定義を、政府の食品衛生法で定めています。
1980年代を過ぎた頃より、動物愛護、食糧問題、環境問題、健康志向、目標達成といった理由で“素食”をすすめる人も増えてきました。
メリットもデメリットもある
有名人が「ベジタリアンになって健康になった」というと、良いもののように聞こえます。ですが、健康上のデメリットもあることを知っておく必要があります。
ベジタリアンのメリット
① 肉類中心の食生活に比べ、野菜や果物に含まれる栄養素や食物繊維は生活習慣病を予防する。
②心臓病のリスクが低いという統計もある。
③加工肉にあるといわれる特定の癌リスクが低い。
ベジタリアンのデメリット
①たんぱく質源の確保が難しい。(豆類の摂取が必要)
②植物性の非ヘム鉄は、動物性食材のヘム鉄に比べて身体に吸収されにくい。(ビタミンCと組み合わせてとる必要がある。)
③ビタミンB12といった動物性食品に多く含まれる栄養素は、サプリメントや栄養強化食品などからとる必要がある。
④ビタミンDは、日光浴やきのこ類の積極的な摂取からとる必要がある。
⑤カルシウムは青菜だけでなく、豆乳やカルシウム添加食品の摂取が必要。
まとめ
SDGsという、国連が2016年から掲げ始めた持続可能な開発目標があります。これは2030年までに叶えたい目標です。
この中で環境と食糧供給に対するものの一部に、次のような課題があります。
・地球温暖化による水不足から、家畜を飼育するための水が足らず飼育困難である
・海水温上昇により漁獲量が減少
これらへの対策として、これまで動物性食材に頼っていた部分を植物性に代替えする動きがあります。これもベジタリアン人口を増やすきっかけとなっています。
植物性食材の摂取の機会が増すと、生活習慣病といった疾病の予防につながります。
日本は、食料を輸入に頼ることが多く、環境問題への意識が外国に比べて低いといわれます。
時代の流れに乗って、菜食と動物性食材をバランス良く食卓に取り入れることは、地球環境と健康のためにも良いことにつながるのではないでしょうか。
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